ここで一度、全体を元に戻し症状を確認する事とした。というのは故障修理を依頼されたのはたまたま実家に帰った時であり、信号源も負荷も無く動作テストも出来ず、手元にあるのはテスターのみであった。
自宅に持ち帰りテストを行うこととした。ただ高出力に耐えるスピーカーは持ち合わせていないので15Ω10Wの抵抗をヤフオクで調達し、各チャネルの負荷とした。入力にはオーディオジェネレータを用意した。動作を試してみるとチャネルBは正常に働く一方チャネルAには出力が出ていない。やはりチャネルAに問題がある。
ボリュームを上げるとチャネルBではボリュームに合わせてレベル表示のLEDが上昇するが(このレベル表示はスピーカー出力を全波整流して表示している)、チャネルAではレベルは上がらず代わりにレベル表示の上位にあるCLIPの赤いLEDが点灯する。 このCLIPはボリュームの中点を受けるOPアンプの出力を全波整流して点灯するようになっている(次回路のX7間にCLIPのLEDが接続されている)。
このオペアンプにはスピ―カー出力からの帰還がかかっているので、正常に帰還がかかっていればこの程度の入力でCLIPが点灯することは無いはずであり、それが点灯するという事は帰還ループの何処かが切れていてOPアンプがコンパレータとして動作している事になる。実際スピーカー出力は無く、レベル表示も上がっていない状態でのCLIP表示だ。
そこでOPアンプ出力から終段のTr迄の間の個々の部品をテスターを使って個別にチェックするが全て正常に見える。この時点で終段は怪しいのですでに新品に交換している。試しに2つのドライバーTrを取り外しチェッカーでチェックしたが特に問題はないようだ。この状態で入力信号を加えてみるとドライバーTrのベースには11Vp-pくらいの信号が来ていて特に問題は無さそうだ。う~~む、さっぱり分からない。
ドライバーTrを元に戻し入力信号を加えてみると正常に動いている。なに?どうなっているの?
特に問題ないようなので元のように組み上げて入力を加えてテストしてみるとやっぱり出力が出なくCLIPのLEDが点灯する。さらにチャネルAのヒートシンクが熱くなる。組み上げる時にどこかでショートして異常な電流が流れている様だがどこかは分からない。組み上げた時に終段Trの電極が筐体(シャーシ)に近くなるのでショートしているのでは、と絶縁テープを挟んでみるが状態は変わらない。そのほか 基板の帰還ループに関係する配線がどこかで切れているかショートしている筈だ・・・再び分解してテストすると正常に動作したり異常になったり、だ。基板や部品に力を加えてみても状態は変わらない。クラックやショート、ハンダ不良では無さそうだ。
あれやこれやテストしている最中、本体から分離したチャネルAユニットのシャーシと本体のシャーシが接触すると火花が出る事があった。何か変だ、ここに電位差は無いはずだ。 試しにこの間の電圧を測ってみると、無音時(ボリュームが0の時)には電圧は無いが入力を加えボリュームを上げるとそれに応じて交流の電圧が生じ最大20Vを超える事が分かった・・・どこかで絶縁が破壊されている。いや待てよ、この電圧はスピーカに加わる電圧そのものではないか?
改めて基板を見てみると、 スピーカ出力のX4コネクタが怪しい。他のコネクタは方向が決まって逆向きに挿せないのにX4コネクタだけは方向性が曖昧で、じっさい逆向きに挿す事ができるようだ。
配線を確認しX4コネクタを正しい向きに挿すとシャーシ間の電位差は無くなりアンプは正常に動作するようになった。 X4コネクタを逆挿ししてもチャネルAのユニットが電気的に浮いていて本体シャーシから切り離されていれば問題ないが、シャーシを組み立てるとスピーカー出力が接地されOPアンプへの帰還が無くなる。この事でCLIP表示の現象を説明できる・・・原因はこれか。
という事で、ここには詳しく書いてない事を含め3週間ほどあれやこれやと調べたり部品交換したが、X4コネクタの関係で迷走した。そして訳が分からないうちに故障は直っていた。まっ、いいか。そういう事もあるさ。
(終わり)


